Tuesday 28 July 2009

COLUMN-〔インサイト〕金融危機とイスラム金融、負の連鎖広がらなかった構造の秘密=国際協力銀 吉田氏

http://jp.reuters.com/article/marketsNews/idJPnTK028177220090515

「未 曾有の金融危機の下で、イスラム金融はどうなっているんだ」という質問をよく受ける。米国発の金融不安が各国の金融システムや実体経済にかつて ない規模で悪影響を与えている中、国際金融における新たな潮流として多くの人の知るところとなったイスラム金融は、金融危機の波に飲み込まれてしまったの か、それとも逆風下でも生き残っているのか、あるいは増勢をさらに強めて成長しているのか。

  端的に言えば、イスラム金融は金融危機の影響を大きく受けたと評価してよい。一方、過剰な融資や証券化商品の値崩れなどの影響を受けなかった面も あり、そのためイスラム金融への期待が高まっているのも事実である。本稿では、こうした双方の見方を紹介することで、イスラム金融の最近の実情への接近を 試みる。

  概して、実務家やメディアなどは金融危機の影響による取引量の減少等を、クールにあるいはやや過大に受け止める傾向があるように見受けられる。目 前のビジネスの需要が著しく減少したり、パフォーマンスの絶対水準が下がったりしていれば、やはり厳しい評価とならざるを得ないだろう。データをみても、 2008年イスラム債の発行量は前年比56%超の減少、イスラム株価指数(ダウジョーンズ世界イスラム指数)のパフォーマンスは08年の1年間で39%下 落した。

 筆者自身も、金融危機のイスラム金融への影響を 実感することがある。筆者はこの2年で20回ほど海外での講演に招聘(しょうへい)されているが、 昨年11月にドバイで行われたセミナーは、過去にはあり得なかったほどひっそりとしたものだった。その3カ月くらい前に来た招待状には、いくつかの外資系 金融機関と3つの大手イスラム銀行がスポンサーとして紹介されており、スピーカー陣にもそれらの機関の著名バンカーやその他の業界有力者など15人ほどが 名を連ねていた。

 ところが、セミナー当日に会場を訪れて みると、すべての金融機関がスポンサーから撤退し、残っているのは公的機関と格付会社の2つのみ。スピー カー陣も、来るはずの海外著名人がほとんど来ず、地元関係者が大半。こうした中で、高い費用を払って聴講する参加者の数も限られ、弁護士や公的機関職員が 数名いた程度であった。要するに、スピーカー、スポンサー、聴衆の3者が、いずれも金融危機の影響による経費削減姿勢を主因にセミナー参加に消極的になっ ているのである。

  こうした消極姿勢の影響はイベント主催者自体にも及んでいる。今年4月にニューヨークでのイスラム金融シンポジウムがあるということで年明けに主 催者より講演依頼を受けていたが、その後、スポンサーや聴衆が集まらないため中止するとの連絡があった。同様にマレーシア投資銀行協会やマレーシア・イス ラム金融研究所から講演依頼のあったセミナーも、1度延期された後、開催が見送られた。

 現在はイスラム金融が金融全体に占めるウェートは小さく、コンベンショナル金融(イスラム金融でない普通の金融)の影響を大きく受けやすい構図にある。すなわち、現下の金融危機の下で、イスラム金融が無傷で生き残っているということはない。

 他方、イスラム金融の推進者たる金融当局関係者や原則論に焦点を当てるイスラム経済学者などには、イスラム金融が証券化商品等の損失を原理的に受けない構造となっていることなどから、現状においてもイスラム金融は頑健だとする向きが多い。

  イスラム金融取引の詳細については、拙著「イスラム金融はなぜ強い」(光文社新書)などを参照されたいが、コンベンショナル金融との大きな違いと して、有名な利子の禁止のほか、1)投機的要素が回避される、2)債権の転売などが回避される──などが挙げられる。要するに実体のある経済活動のために 金融取引をすべきというのが教義の基本思想であり、マネーゲームは禁じられるということだ。従って、サブプライムローン(信用度の低い借り手向け住宅ロー ン )関連証券化商品や投機目的のデリバティブ取引などとは無縁なのである。

 こうした性質などをふまえ、著名イスラム経済学者であるウマル・チャプラ氏(イスラム開発銀行研究施設の研究顧問)は「影響は欧米ほど深刻ではなく、イスラム金融を金融危機の救済に活用できる」と指摘した。

 また、マレーシア中央銀行のゼティ総裁も最近の講演で「イスラム金融の基礎となるイスラムの教えは、国際金融システムに重要な示唆を与えてくれる」と述べている。

  前述の通りイスラム金融が金融危機の影響を受けていることは間違いないが、こうした特性に期待する向きが少なくないのも事実である。筆者が前掲書 でも指摘したように、コンベンショナル金融と異なるリスクプロファイルを有するイスラム金融は、ショックに対する頑健性を高め、金融システム全体の安定性 を高めると考えられる。先行き不透明な環境の下、金融市場の行く末を展望する上ではイスラム金融のこうした特性にも注目しておきたい。

 国際協力銀行・国際業務戦略部調査役、早稲田大学ファイナンス研究センター・客員准教授 吉田悦章

 

 (15日 東京)

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  <略歴>吉田悦章(よしだ えつあき)ハーバード大学留学を経て一橋大学卒業後、日本銀行入行。国際局、金融市場局、調査統計局などで国際金融市 場・制度や日本経済に関する調査に従事。2007年に国際協力銀行に移り、イスラム金融などを担当。08年から早稲田大大学院ファイナンス研究科でイスラ ム金融を講義。

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